世界NO.1を競い合える技術が、ここにある。
1950年創業の電子部品メーカー・太陽誘電(株)。一気通貫体制で生み出す積層セラミックコンデンサやインダクタは、通信機器や自動車をはじめとする幅広い分野に搭載され、世界の電子化の一翼を担っています。昨年就任した佐瀬社長が、自らのキャリアを振り返りながら、会社の未来や人材について語りました。
カセットテープの仕事を経験後、インダクタやコンデンサの技術開発に従事
私は1986年に太陽誘電に入社しました。新潟県で学生時代を過ごし、卒業後は地元の群馬県に帰ろうと考えていた私に、研究室の教授が薦めてくれたのが当社でした。大学時代は物理化学を専攻し、測定装置を組み立てて物質の構造を解析することを学んでいました。その組み立ての工程においてコンデンサなどの電子部品を使用していた縁から、教授推薦での選考を経て入社することになりました。
入社後、最初に配属されたのが磁気テープ生産技術課です。ここは、太陽誘電で初めてのエンドユーザー向け製品だった「カセットテープ」をつくる部署で、ちょうど私が入社する3年前くらいから量産が始まっていました。今は音楽をダウンロードして聴くのが当たり前なので、学生の皆さんにはあまり馴染みがないかもしれませんが、音楽の録音や再生にはカセットテープを使用するのが一般的な時代でした。
この部署での仕事を通して、まず上司から教えられたのが「着地点にこだわる」ということでした。目標を定めて、そこにたどり着くためにはどういうロジックを積み重ねて、どんな方法や手段を講じていけばいいのか。仕事の進め方や考え方というのは学生時代の勉強とは異なるものであり、苦労もしましたが、磁気テープ生産技術課での5年間で社会人として働く基礎をしっかりと学び、自分のスタイルを確立していきました。最初が肝心とはよく言いますが、今振り返ってみてこの5年間はその後の社会人生活を左右する非常に大切な期間だったと思います。このような私自身の経験から、新入社員の人たちと話をする機会があるたびに、自分にとってお手本となる上司や先輩社員を見つけてほしいと伝えています。
私がこの部署での仕事を5年間経験した後、太陽誘電は1つのターニングポイントを迎えます。カセットテープ事業からは撤退することになったのです。磁気テープ生産技術課のスタッフは他の部署に異動となり、私は1991年から積層インダクタの生産技術開発に従事し、1996年からは積層セラミックコンデンサの技術開発に携わることになりました。
コンデンサ事業での技術開発を通して学んだ再現性・汎用性・先行性
積層セラミックコンデンサは「MLCC(Multilayer Ceramic Capacitor)」とも呼ばれ、誘電体セラミックス材料からつくられた電子部品で、電気を一時的に蓄えたり、ノイズを除去したりする重要な役割を果たしています。太陽誘電の得意とする最先端・高信頼の積層セラミックコンデンサは、スマートフォンやタブレット端末などの通信・情報機器、IT・エレクトロニクス化が加速する自動車、情報インフラ・産業機器など、幅広い分野の電子機器に数多く搭載され、高い評価を獲得しています。
太陽誘電がカセットテープ事業で培った高度な技術力は、この積層セラミックコンデンサの開発においても大いに活かされることになり、技術の共通化と伝承によってそのレベルと品質の向上という成功をもたらしました。カセットテープ事業からの撤退は当社にとって大きな決断ではありましたが、それまでに投下した資金や時間、そして培ってきた技術力は、コンデンサやインダクタ事業において確かな財産という形で残り、現在でも息づいています。
私がこれらの技術開発を通して学んだのが「再現性・汎用性・先行性」という考え方で、今でも大切にしています。
「再現性」は、同じ結果を繰り返し出せることを意味します。私たちの仕事は、何十億個という製品をつくる過程において、微量でも不具合が発生すれば、大きな品質問題に発展してしまいます。常に一定の品質でつくることができる再現性がとても大切であり、再現性を発揮するために技術を高めていくことを実践してきました。
2つ目の「汎用性」は、開発した技術が他の製品でも使えること。1個の製品や短期間でしか使えないといった、汎用性の低い技術は価値が無いものと意識して取り組んできました。自分が開発した技術がいろんな製品に展開されて、10年・20年と長く生き続けることに喜びを感じるエンジニアは多いものです。自分がやってきたことの価値は、そこに表れると思っています。
そして3つ目の「先行性」は、競合する他社に先駆けて新しい技術を生み出し、ニーズに合った製品をいち早く開発することです。これらの「再現性・汎用性・先行性」をもって常に世界の最先端を意識した技術開発を行うことが必要であると考えています。
技術の進化に深く関われるのが、エンジニアの喜び
エンジニアという仕事には、根気が求められます。納期という限られた時間の中で、目標に向かって全力を尽くして目の前の仕事に取り組んでいくことは当然のことですが、その過程において不具合が発生する場合もあります。最初は原因がわからないので、なぜこのような現象が起きるのかを徹底的に調べて究明していきます。それは楽しい作業というものとは少し違って、使命感を持って時には寝食を忘れて向き合うようなこともありましたが、原因がわかって不具合を解消できた時には、スッキリとした爽快感とともに1つの壁を乗り越えた達成感に満たされます。同時にそれは技術の進化を意味しています。そのような仕事に立ち会い、深く関われることも、エンジニアならではの喜びだと思います。
私が経験してきた時代と比べて、今は新しいものをつくる上で様々な方法やツール、活用できる情報があります。目標を決めて、頂上へ登っていくルートはたくさんあります。大切なのは、どうやってそこに一番はやくたどり着くことができるか。大変なことかもしれませんが、これからエンジニアを目指す人たちには、そのおもしろさを存分に味わってほしいと思います。
これからの世の中はさらにデジタル化が進み、電子部品は私たちの生活に欠かせない存在として、需要と生産量は大きく増加していくことが予想されます。太陽誘電は日本を含むアジア・北米・欧州でグローバルに事業を展開し、積層セラミックコンデンサでは世界でトップ3のシェア(当社調べ)を誇っています。最先端の技術力を駆使して、国内外の大手同業他社と競い合い、「世界No.1」の製品を開発できるような環境があり、ベテラン社員に限らず、新入社員であってもそのような仕事に携わることが可能です。エンジニアとしてものづくりに携わる人材にとって、こういった環境があることは大きな魅力であると自信を持って言えます。
自由な社風とベンチャーの精神が根付くエンジニアにとって働きやすい環境
当社では、2030年を見据え、そのマイルストーンである2025年度を最終年度として策定した「中期経営計画2025」を推進しています。この計画では、企業価値を永続的に高めるためには経済価値に加えて、社会価値も併せて高めることが必要であると捉えています。
経済価値と社会価値のそれぞれについて従来から認識していた課題や取り組みを整理・抽出し、この両輪を高めていくことで、様々な社会課題の解決に貢献するとともに、よりよい社会の実現を目指しています。
この社会価値向上のための重要課題として、当社の経営理念の1つである「従業員の幸福」につながる働き方改革やダイバーシティ推進の取り組みがあります。多様な個性を持つ一人ひとりの社員が健康であり、仕事で活力を得てイキイキと能力を発揮できることは、太陽誘電の価値創造の源と言えます。ダイバーシティ推進とともに、ワークエンゲージメント(仕事に対してのポジティブで充実した心理状態)を定期的に測定し、仕事のおもしろさややりがいを高めていく取り組みも進めています。
さらに、エンジニアにとって働きやすい職場づくりや風土の形成にも力を注いでいます。当社には年齢やキャリアに関係なく、個々の意見や発想を尊重し、積極的なチャレンジを歓迎する風土があります。若手社員であっても、その意見や発想が成果に結びつくと判断されれば、速やかに実行に移して製品化やビジネスにつながったという例は数多くあります。自由な社風のもと、言わばベンチャーの精神が強く根付いており、これは他社にはない当社ならではの大きな特徴として、仕事の進めやすさやエンジニアの成長につながっています。
また、もう1つの特徴であり、強みとして挙げられるのが、素材の研究・開発から製品開発までを一気通貫で行う開発・生産体制を構築していることです。生産設備もすべて自社で設計・最適化しています。すべての工程を自社で一貫して行うことで、変化への柔軟かつ迅速な対応が可能であり、独自の技術を蓄積してお客様のニーズに応えています。このような体制が整っていることも、エンジニアが自らの能力を発揮して成果を生み出す上で、大きなメリットとして作用しています。
若手エンジニアの成長を支援する充実した教育研修制度を実施
現在、当社ではコンデンサ事業が主力となっていますが、今後は電子部品事業の中で第2、第3の柱となる事業を立ち上げていくことを目標に掲げ、さらなる安定基盤を確立していきたいと考えています。
一方、電子部品以外の分野でも、新たな取り組みが始まっています。その1つが「社会課題解決型ソリューション」です。例えば、2022年度は「河川モニタリングシステム」を事業化しました。これは、河川の水位や状況をリアルタイムで監視する機能を備えたもので、防災・減災に役立つシステムとして自治体向けにサービスを提供しています。その他に、電動アシスト自転車の走行中に充電ができ、環境負荷を軽減する回生電動アシストシステムの開発なども手がけています。その根底にあるのは、経営理念にも掲げている「地域社会への貢献」です。地域社会の人たちが安全・安心に暮らせる街づくりへの貢献を目指して、太陽誘電が培ってきた技術を活用したソリューションを提供していきたいと考えて、エンジニアたちが日々努力と研鑽を重ねています。
冒頭で私自身の経験から、最初の5年間はその後の社会人生活の基盤となる大切な期間になったとお話しましたが、当社の教育研修制度は入社6年目までの間に充実したプログラムを実施しています。若手社員である早朝の段階から体系的に、業務を遂行していく上で必要な基礎知識・スキルを、様々な研修を通して習得していくことに力を入れています。
これから社会人になる皆さんには、いろんなことにチャレンジして経験を積んでほしいと思います。自分に起こる変化をチャンスと捉え、その時々において仕事と人に真剣に対峙していくことが大切です。そのようなキャリアの積み重ねが、自分自身を着実に成長へ導いていくことになります。
当社には自分次第で活躍できるチャンスが満ち溢れています。そして、そのような環境の中で、「ものごとを自ら意味づけられ、きっかけをつくることができ、周囲の人たちを魅せられる人材」を求めています。私たちとともに、まだ世の中にない新しい製品や技術を生み出していきたい、ものづくりを極めていきたいというマインドを持った、新たな人材との出会いに期待しています。
【理系学生の皆さんへ】興味があることを見つけ、目標を明確にして、とにかくやり続けることが大切です。
エンジニアを目指す人たちには、まず興味のあることを1つ見つけてほしいと思います。そして、目標を明確にして、使命感を持ってやり続けること。壁に突き当たっても、決してあきらめない気持ちを持って取り組んでいくことが大切です。
たとえ、その時は成功に至らなかったとしても、努力したことは後になって必ず役立つ時が来ます。ひたむきにそれをくり返していくことが、キャリアを形成していきます。
また、好奇心を持つことも必要です。例えば、私は磁気テープ生産技術でカセットテープ事業に携わっていた時代を振り返って、自分たちにはない技術力を持っていた競合他社のエンジニアに、今でも話を聞いてみたいと思うことがあります。
未だにそれは実現できていないのですが、若い時に自分にとって謎だったことや疑問に思っていた答えを、飽くなき好奇心を持って生涯にわたって追い求めていくことができるのも、ものづくりの仕事に携わった者だから経験できることだと思います。
ものづくりの中でも、電子部品はまさに日本のお家芸であり、世界に誇れる仕事として世界をリードしている稀少な業界と言えます。その仕事に携わる醍醐味を、皆さんにもぜひ味わってほしいと思います。
大切にしている言葉は、「為せば成る。」
為せば成る。-私が子供の頃、毎週楽しみにしていたテレビ番組から影響を受けた言葉です。やればできる。やる気があれば必ずやり遂げられる。社会人になってからも、この言葉を常に意識して、精いっぱい仕事に取り組んできました。
取材協力:太陽誘電株式会社
https://www.yuden.co.jp/